前回の『友人編(1)』ではロイスの親友エリーゼに注目し、ウィルソン家の養子縁組を巡って二人の間に起きた出来事を話題にしたところで終わりました。
病とソブライエティの狭間
養子縁組が却下された1928年以降の6年間は、大恐慌、母の死、父の再婚、繰り返すビルの入退院、病状に関するシルクワース博士からの絶望的な宣告と、ロイスにとっては最後の暗黒時代であったと言えます。
1934年の終わりにビルの友人エビーが来訪、その後ビルに起きた霊的体験によって飲酒が止まり、ロイスはその暗闇から救い出されました。
こうして家族の再生期が突如として始まるわけですが、この頃にビルとロイスが交流を持った大勢の人たちの中でも、ドクター・ボブの妻アンはロイスにとってとりわけ大きな存在であったと考えます。今回の記事ではアンとの関係性に進むつもりでした。でもその前に、番外編を一つ挟むことにしました。この時期に家族が感じやすい戸惑いと不安。その幾つかをロイスの物語から抽出してみたいと思います。
アラノン・バースディ
ところで、最後に酒を飲んだ日はAAのメンバーにとって大きな意味を持つものと考えます。片や私たちアラノンは、一体何を節目とするのでしょうか。
アラノンミーティングに行き始めた時とするとしても、正確な日付まで覚えている人はほとんどいないですよね。むしろ大事にされているのはそのきっかけや、「アラノンに来る前」と「アラノンに来てから」の変化の方。
さらにすべてのメンバーに該当するわけではないけれど、「アルコホーリクが飲んでいた時」「アルコホーリクがソーバーになってから」という区切りも重要です。これら二つの時代から、多くの家族にとってアルコホーリクの断酒が即解決ではないことが分かるからです。
ソブライエティの夢と現実
さて、それから5ヵ月が過ぎた1935年の4月末。ロイスはまさに「夫が酒をやめれば何もかも上手くはずだった」という苦悩の中にいました。
一方のビルは、懸命に助けようとしていたアルコホーリクたちが悉くスリップし、自分のソブライエティに疑問を抱き始めていたところでした。
そんな矢先、ビルの元に大きな仕事が舞い込みます。それには暫く単身でアクロンという都市に滞在しなければならず、エビーからは強い反対を受けるも、経済的なプレッシャーを抱えていたビルはその依頼を承諾します。
ところが出発の前日にはスーツや靴が気に入らずビルの感情が大爆発。「それでもあなたは飲んでいない」と励ますロイスに対し、「自分は飲んでいないだけの酔っ払い」と言い放って家を飛び出してしまいます。
新しい日常の課題にアルコホーリクが直面する時、家族にはそれが次の惨事を引き起こすリスク要因にしか見えません。つまり試されるのは本人も家族も一緒。何かしらのアンカーがない限り、家庭の再建は双方にとって心許ない、また極めて困難な作業になるものと考えます。
no sobriety, no life
ビルが受けた仕事は、成功すれば一気に再起を果たせる程のビッグチャンスだったようです。アクロンからロイスに宛てられた最初の便りを見ると、ビルがこの取引に非常に大きな望みを懸けて挑んでいたことが分かります。
ここまで一攫千金的ではないにしても、ソブライエティを生き始めようとする家庭ではこのような状況になりやすい。「まずはどうにもならなくなってしまった人生の方をどうにかしないことには何も始まらない」という考えは、至極真っ当であるとも思う。
そうやって共同体を後にし、連絡が途絶えた人たちがたくさんいます。私の夫はよく「彼らから絵葉書が届いたためしがない」なんて言いますが、中には自分の力でどうにかなった人だっているのではないのかな。とは言え、時おり悲劇的な結末を耳にするのも揺るぎのない事実です。
神が振った采配
2通目の便りには、ビルたちの形勢が傾きかけている様子が記されていました。しかし実のところ、ロイスがそれを読んで胸をざわつかせた時には既に、最も恐れていた事態がビルに起こりかけていたのでした。
ところが、ビジネスが惨敗を喫して一人ホテルでうなだれていたビルの足が向かった先はバーではなく電話ボックスであり、ビルが求めたのはアルコールではなくもう一人のアルコホーリクだった。そこで起こっていたのはロイスが想定した次の惨事ではなく、もう一つの奇跡、ドクター・ボブとの出会いだったのです。
ロイスがその全貌を知るまで、もう少しの時間がかかります。次回の記事でその辺りに触れ、『友人編(2)』に移るとしましょう。
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常々感じていることがあります。それは、夫が求めるスタンダードは往々にして高いということ。しかしそれが鋭い洞察力によるものなのか、はたまた精神の未熟さによるものなのか、私にも分からない時が多々あります。実際に紙一重なのかも。いずれにしても、その理想から見ると世間は余りに無神経であって要求に見合うはずもなく、時おり暗部に落ちては悪魔的な感情を露呈させます。
先月ソーバー14年目を迎え、極から極へ振れる勢いは穏やかになり、戻る過程も全く変わったように見える。昨日たまたまスポンサーとそんな話になりました。
彼女の方は、以前はあまり取り合わないようにしていたけれど、最近は敢えて(衝突するのを承知の上で)自分の考えを伝えるのだとか。
お互いのプロセスを信頼していないとできないことだと思う。
