【アラノンの関係性】友人編(1)

A grassy field with a path under a bright sky.

私の一番古い記憶は何だろうと、時々考えます。断片的な場面をいくつか集めてみるけれど、それも繰り返し思い起こすうちに出来上がったものに過ぎないような気もする。
長い海外生活を経て、日本の友人とは連絡が途絶えてしまっていました。ところが数年前、通勤電車の中で幼少期からの幼馴染の一人と偶然的に再会。彼女がもう二人の幼馴染と親しくしていたため、私が40年振りに加わり、また4人で会うようになりました。当たり前だけど、彼女たちの記憶の中には私も知らない私がいます。みんなが寄せ集める話に自分の原風景を見るような、不思議な感覚でした。

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シリーズ第三弾となる今回、私たちが注目するアラノンの関係性は「友人」です。
When Love Is Not Enough: The Lois Wilson Story にはロイスの友人が複数登場しますが、ここでは特に重要な二人の女性との関わりを取り上げてみたいと思います。

小学校の最初の日、ロイスの隣に座っていた可愛らしい少女。それがエリーゼでした。
親分肌で活発なロイスと優しく控えめなエリーゼ、対照的な二人はその後の12年間を同じ学校・カレッジで学びます。しかしエリーゼがロイスの家族とも親しかった一方で、ロイスがエリーゼの家を訪れることも、エリーゼが自分の家の話をすることもほとんどありませんでした。エリーゼの父親は、飲酒の問題を抱えていたのです。

ロイス曰く、非常に美しく、それまでどんな異性にもなびかなかったというエリーゼでしたが、ロイスがビルと出会う一年ほど前、ウォール街のブローカーであったフランク・ショーという青年と結婚をします。
ロイスとの婚約発表の翌日にショー夫妻に紹介されたビルは、若くして富と名声を手にしているフランクに大きな感銘を受けました。

ロイスと結婚してすぐ、ビルは第一次世界大戦で戦地ヨーロッパに赴きました。その後無事に復員するも、やりたい仕事も見つからず、度々訪れる鬱に悩まされ、飲酒は酷くなるばかり。
失意のビルに浮かんだ(企業の現状と収益・今後の発展の見通しに関する情報を集めるという)アイディアによって、ロイスとサイドカー付きの二輪自動車に乗ってキャンプ生活をしながら各地を回り、足で稼いで得た情報が功を奏して株式の世界で大成功を収めた、というのは有名な話です。

現地調査の旅に出る前、ビルは証券会社の代表社員となっていたフランクにそのアイディアを持ち込み、ほとんど門前払いを食らっています。
そしてその僅か数年後にはビルの報告書が高く買われ、フランクの会社から破格の待遇で迎えられたのですから、さぞかし二人とも鼻が高かったことでしょう。
そうしてロイスも突如、エリーゼを始めとするブローカーの妻たちが集まる社交場に加わることになりました。

しかしながら、類稀な才能と努力によって成し遂げようとする夢や目標も、人間的な魅力に対して人々から寄せられる信頼やチャンスも、アルコホリズムにかかっては呆気なく消えていきます。
ビルの成功の上にもほどなく暗雲が漂い始めました。彼の飲酒にまつわる悪い噂はフランクの耳にも頻繁に入るようになっていたのです。

当然ながら、エリーゼは少々苦しい立場に立たされます。親友の夫の地位が危ぶまれていることを自分の夫の口から聞かされるのですから。
けれど、エリーゼにとって最も辛かったのは、フランクの決断によってビルとロイスが路頭に迷うことではなかったと思う(それもまた見るに堪えないことだとしても)。
むしろそれは、問題がビルの飲酒そのものであり、それを訴える自分の声がロイスに全く聞かれないことであったと考えます。目先の悪結果を救ったところで根本的な解決にはならないことを、エリーゼは自らの経験から知っていたのではないでしょうか。
否認によって私たちが愛する人たちをシャットアウトしていく様が、ここにはっきりと現れています。

前回の記事でも触れた通り、ロイスは三度目の流産の際の手術によって妊娠を望むことができなくなりました。それがビルの飲酒の原因ではないと納得しても、ロイスにとって「子ども」が希望であることに変わりはなかったのだと想像します。

ある実業家の豪華なホームパーティーに二人で招待され、そこでビルが大失態を曝した翌日、ロイスは「酒をやめるまで帰らない」という置き手紙を残して家を出ます。
ところが、家出先で立ち寄った公園で小さな子どもたちが遊ぶ光景を目にし、今度はロイスの方にある考えが浮かびます。「養子を迎える」というそのアイディアは、ロイスの心の奥に残されていた一筋の光でありました。
ロイスはその足で次の列車に飛び乗って家に帰り、すぐに養子縁組の申請作業に取り掛かりました。

現在を生きる私たちは、ビルとロイスに養子がいなかったことを知っています。つまり、養子縁組のプロセスは実現しなかった。
代理機関から知らされたのは、「現況を鑑みて承認できない」という判断結果のみ。そしてその二年後、ロイスは本当の理由を知ることになります。
ウィルソン夫妻に深刻な飲酒の問題があることを代理機関に伝えたのは、ロイスからの願いで推薦人になっていたエリーゼだったのです。

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本書はTV映画化されていますが、このエピソードは映画の中で割と大きく描かれており、私にとっても印象に残ったシーンでした。
ところがその後 Lois Remembers を読んでみると、ロイスの叙述と映画の内容に齟齬があります(ロイスは1974年までこの事実を知らなかったと書いている)。
原作がある映画にフィクションが混じるのはよくあること。それを確かめてみたいという気持ちもあって、原作である本書を読んだのでした。
本書の注釈によると、ロイスはインタビューを受けながらバラバラになった記憶を手繰り寄せ、株が暴落する少し前にエリーゼから直接この話を聞かされたことを思い出しています。この出来事がロイスにとって思い出したくない過去であったことは、想像に難くありません。

でも、そうした経時的事実よりも大切なのは、その後の二人の関係性ですよね。
それは次回、もう一人の友人との関わりについて考える時のために取って置きましょう。
その友人とはロイスにとって初めての仲間、ドクター・ボブの妻アン・スミスであります。

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