アラノンの第二ステップ(4)自分より偉大な力

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スイスで暮らす間に親しくなったヨーロピアンは、不思議とみんな年齢が私より一回りほど上の人たちでした。いわゆる後期ベビーブーマー世代の特徴なのか、はたまた偶然なのか、彼ら彼女らは一様に宗教を嫌いました。それもただ闇雲にというわけではなく、自らのバックボーンであるキリスト教を・・・。子どもの頃は教会に行くのが当たり前だったようです。その親たちは自分の宗教を疑わない最後の世代だったのかも知れません。しかし子どもたちはそれぞれ何かに幻滅し、教会を去りました。片や根無草のような宗教観しかもたない私は、その歴史的な存在感に勝手に納得し、熱心にバイブルスタディに通っていました。そんな私のことをスイス人はただただ心配していました。仏教の方がよっぽどいいんじゃない?とか言いながら。私は私で何かに幻滅し、別の何かを求めていたのでしょう。それが好意的であれ非好意的であれ、私たちは宗教に対して多くの偏見を持っているものです。

「自分より偉大な力」は、12ステップの文言において「ハイヤーパワー」または「神」とも呼ばれます。けれど、12ステッププログラムは宗教ではありません。Al-Anon.orgは、よくある質問の一つ「アラノンは宗教的なフェローシップですか?」に対し、以下のように回答しています。

「アラノン家族グループは霊的なフェローシップであり、宗教的なフェローシップではありません。私たちは特定の宗教的な教義について論じることを避け、あらゆる信条を持つ(または持たない)メンバーを歓迎します。アラノンの12ステップは、私たちの問題を解決してくれる「自分より偉大な力」を見つけ、平安を見つけることを私たちに求めるものです。すべてのメンバーはこの力を自分なりに定義することができます」

それでは、霊的(spiritual)なことと宗教的(religious)なことにはどのような違いがあるのでしょうか?それぞれの言葉の意味を挙げてみます。

spiritual: of or relating to sacred or religious matters(神聖な、または宗教的な事柄に関すること)

sacred(神聖な): connected with God or a god(神と関係があること)

religious: of, relating to, or involved with religion, or living and worshiping according to the beliefs of a particular religion(宗教に関連する、または宗教と関わりを持つ、あるいは特定の宗教の信条にしたがって生き、崇拝すること)

「霊的」が「神と関係がある事柄、または宗教的な事柄」を意味する一方で、「宗教的」は「特定の宗教の信条にしたがう生き方」を意味します。つまり霊的なことは、宗教的なことを含むけれど、それに限定されません。これを踏まえて上の回答を読むとはっきりします。

自分より偉大な力とは、神と関係がある力である。その力は特定の宗教が定める神(または別の呼び方の何か)であっても良いし、そうでなくても良い。私たちはその力の概念を好きなように選ぶことができる。

1930年代のアメリカで、人々はこの考えをどんな風に受け止めたのでしょうか。しかもそれでこれまで何をやっても助からなかった人々が助かったのですから。

アラノンの12のステップ、伝統、コンセプトがまとめられたPath to Recoveryは、それぞれの項目の最後に質問があり、スポンサーシップなどで好んで使われる本です。ステップ2の一つ目の質問は「今この時点での自分のハイヤーパワーの概念は何か」となっています。数年前、一人目のスポンシーとのステップワークに備えてこの質問に答えたとき、がんばってあれやこれやと書いたのを覚えています。そして先日、スポンサーと私はPath to Recoveryのステップ2の本文を読んでいました。スポンサーが「ユキさんから具体的な経験が出てこないから質問をやろう」と言い出しました。内心(しまったなぁ・・・)と思いました。ちゃんとあらかじめ質問に答えた上で臨みたかったからです。図らずもこの質問を突きつけられ、私は何と「わからない」と言っていました。これには私自身、かなりショックでした。これまで何をやっていたの???でもそのとき、これこそが私がもう一度ステップをやろうと思った理由であったのだと気がついたのです。

その数日後、夫が不意にハイヤーパワーの概念について話し始めました。こんなにタイムリーな話題ながら、私は何事もなかったかのように「どう定義する?」と聞いてみました。「前は何でも話せるバディのような存在だと思っていたけど、今は力の源」と言いました。そんなシンプルなことなんだ・・・と思いました。私はまた例によって例のごとし、神を解き明かそうとでも思っていたのでしょう。そしてこの私の頭でっかちは、こと「信じること」に関して、まったく役に立たなかったのでした。ステップ3に進む前に、この「信じるということ」について少し考えてみたいと思います。